音楽が好きなのに、なぜかライブやコンサートに行くとなると、どこか気が重くなる……。
- あの空間でしか味わえない、音や人との一体感。それは確かに最高だ。
- アーティストの息遣いまで聞こえてきそうな、あの臨場感は何物にも代えがたい。
そう、頭ではわかっているのです。
村上 亮一もちろん、ライブの楽しさも、そこでしか得られない感動も十分に理解しています。
しかし、その高揚感と同じくらい、あるいはそれ以上に、終わった後のぐったりとした疲労感が勝ってしまう。
帰り道、人混みにもまれながら「楽しかったはずなのに、なぜこんなに疲れているんだろう……」と、自分の心とのギャップに戸惑う。
そして、次のライブの誘いには、なんだか臆病になってしまう。
もし、あなたがそんな言葉にならない違和感を一人で抱え込んでいるのならーー



大丈夫です。
それは、あなたの音楽への情熱が足りないからでも、社交性がないからでもありません。
その原因は、もしかしたら、あなたが生まれ持った「HSP(Highly Sensitive Person)」という気質にあるのかもしれません。
かくいう私も、ギタリストでありながら、長年この「ライブ疲れ」に悩まされてきたHSP当事者の一人です。
この記事では、HSPがなぜライブで人一倍消耗してしまうのか、その理由を私の経験と知識を元に解き明かします。
そして、世間一般の「楽しい」に自分を無理に合わせるのではなく、あなた自身の心が本当に喜ぶ、「幸せな音楽体験」を見つけるための具体的な方法を提案したいと思います。
この記事を読み終える頃には、あなたは自分を責めるのをやめて、自分だけのやり方で、もっと深く、もっと自由に、音楽を愛せるようになっているはずです。
第1章:その疲れ、あなたのせいじゃない|HSPという「気質」の正体
まず、最も重要なことからお伝えします。
あなたがライブで人一倍疲れてしまうのは、あなたの「気のせい」でも、「我慢が足りない」からでもありません。
それは、HSP(Highly Sensitive Person)という、生まれ持った「気質」によるものなのです。
HSPは病気や障害ではなく、人口の約2割、つまり「5人に1人」が持つ、ごく自然な個性の一つ。



提唱者であるエレイン・アーロン博士は、HSPに共通する4つの特徴を、その頭文字をとって「DOES(ダズ)」と名付けました。
- D:Depth of Processing(深く処理する)
物事を常に深く、多角的に考える。一つの情報から、多くのことを感じ取り、思考を巡らせる。
- O:Overstimulation(過剰に刺激を受けやすい)
音、光、匂い、人の感情など、外部からの刺激に非常に敏感で、脳が処理できる情報量をすぐに超えてしまいやすい。
- E:Emotional Reactivity / Empathy(感情の反応が強く、共感力が高い)
他人の感情に深く共感し、まるで自分のことのように感じ取る。フィクションにも感情移入しやすい。
- S:Sensitivity to Subtle Stimuli(些細な刺激を察知する)
他の人が気付かないような、人の様子や環境の僅かな変化によく気付く。



つまり、ライブという環境は、この「DOES」の特性を持つHSPにとって刺激過多、いわば「刺激の飽和状態」になりやすい場所なのです。
次の章では、この4つの特性が、ライブやコンサート会場などでどのように私たちを消耗させるのか、具体的に見ていきましょう。
第2章:なぜHSPはライブで人一倍消耗してしまうのか? |5つの理由


HSPがライブで感じる疲労は、単なる「体力の問題」や「人混みが苦手」という言葉だけでは片付けられません。



そこには、私たちの脳と心が、無意識のうちに行っている、複雑で膨大な処理やエネルギー消費があるのです。
理由1:五感を突き刺す「刺激の連続」
HSPの神経系は、例えるなら「高性能マイク」や「高解像度カメラ」のようなものです。
多くの人が無意識にフィルタリングしている情報を、すべて鮮明に拾い上げてしまいます。
そして、ライブハウスは、まさにこの「刺激」が渦巻く場所。
- PAスピーカーから叩きつけられる、物理的な衝撃を伴うほどの「大音量」
- 絶え間なく点滅し、明暗が激しく変化する「照明」
- スモークや飲食物、汗、香水などが入り混じった「匂い」
- 密集した人々の「熱気」や、肌が触れ合う「不快感」
これらの刺激の一つひとつが、私たちの感覚器官に容赦なく流れ込みます。



脳はそれらを処理しようとフル稼働を始めますが、情報の奔流に追いつけず、あっという間に限界を迎えてしまうのです。
理由2:思考が止まらない「過剰な情報処理」
HSPは、入ってきた情報をただ受け取るだけでなく、一つひとつを「深く処理」する特性があります。
そして、ライブ中、私たちの脳内では、こんな一人会議が常に開かれています。
「今のギターソロ、少し音がズレた? いや、気のせいかな……」
「MCでアーティストが言ったあの言葉、どういう意味なんだろう?」
「隣の人、腕を組んでつまらなそうにしているけど、楽しめてないのかな?」
演奏そのものだけでなく、音の細部、歌詞の意味、アーティストの表情、周りの観客の反応など、あらゆる情報を拾い上げ、その背景や意味を無意識に分析し続けてしまうのです。



これでは、「ただ音楽に身を委ねて楽しむ」という、シンプルな状態になれないのは当然のことでしょう。
理由3:感情が流れ込む「共感疲れ」
HSPの極めて高い共感力は、ライブ会場では諸刃の剣となります。
アーティストが放つ喜びや情熱、そして観客席から生まれる興奮や熱狂といった、ポジティブな感情のエネルギー。
それらと一体になれるのは、確かに素晴らしいことです。
しかし、私たちの心は、まるでスポンジのように、あらゆる感情を無差別に吸収してしまいます。
隣の人の退屈そうな雰囲気や、前のカップルの些細な口論、誰かの焦りやイライラなど……。
そういったネガティブな感情まで、自分のものとして取り込んでしまうのです。
さらに、「みんなを楽しませなければ」というアーティスト側のプレッシャーや、「盛り上がらなきゃ」という観客側の義務感まで感じ取ってしまうこともあります。



つまり、ライブが終わる頃には、自分のものではない感情で心が満ちてしまい、言いようのない疲労感に襲われるのです。
理由4:ノイズを拾ってしまう「繊細すぎる耳と脳」
ギタリストである私にとって、これは特に深刻な問題でした。
HSPは、他の人が気付かないような「些細な刺激」を察知します。
この繊細さには、観客(リスナー)としてはもちろんのこと、自分が演者としてステージに立つ場面でも悩まされました。
- 自分のギターの、ほんの僅かなチューニングのズレ
- アンプから聞こえる、微細なホワイトノイズ
- ドラムのキックと、ベースの低音の混ざり具合の違和感
一般のリスナーはもちろん、他のバンドメンバーでさえ気付かないような細かな部分が気になってしまい、演奏そのものへの集中力を削がれてしまうのです。



もちろん、観客(リスナー)として参加している場合でも同様で、「この会場のミックス、低音が少しこもり気味だな」など、純粋に楽しむことから意識が逸れてしまいがちです。
理由5:目に見えない「エネルギーの過剰な消費」
これら1〜4の理由が複合的に絡み合い、HSPの心身は、目に見えないエネルギーを凄まじい勢いで消費していきます。
私はHSPの心身を、繊細な「フルチューブアンプ」に例えることがあります。
最高の音を奏でるポテンシャルを秘めている代わりに、凄まじい量の電力を消費し、適切なメンテナンスを必要とする、デリケートな機材です。
HSPは、ライブ会場にいるだけで、常にこのアンプをフルテン(最大出力)で鳴らし続けているようなものーー
物理的な体力とは別の次元で、感覚と精神のエネルギーを、あっという間に使い果たしてしまうのです。



これが、ライブ後の極度の疲労感、「魂が抜かれたような感覚」の正体と言えるでしょう。
第3章:「ライブ至上主義」からの脱却
「ミュージシャンはライブをしてこそ一人前」
「音楽の本当の良さは、ライブでしか味わえない」
私たちはいつの間にか、そんな「ライブ至上主義」とも言える価値観に縛られていないでしょうか?



何を隠そう、かつての私がそうでした。
ギタリストとしてステージに立ち、喝采を浴びるーー
それは、音楽を志す者にとって、輝かしい成功の形の一つに見えます。
しかし、私はステージに立てば立つほど、自分の心が消耗していくのを感じていたのです。
「なぜ、大好きな音楽で、こんなにも苦しまなければいけないんだ?」
その当時、「葛藤の正体が、HSPという気質にある」ということは知りませんでしたが、私は一つの大きな決断をしました。



それは、「ライブ中心の音楽活動を手放す」という選択です。
それは決して、音楽を辞める「逃げ」の決断ではありませんでした。
むしろ、自分という唯一無二の楽器を、最も美しく響かせられる場所を選ぶための、戦略的な「選択」だったのです。
歴史を振り返れば、ビートルズはキャリアの後半、ライブ活動を完全に停止し、レコーディングに専念することで、音楽史に残る数々の金字塔を打ち立てました。
つまり、大切なのは、「世間が決めた成功の形」に自分を合わせることではありません。
自分が心から「幸せだ」と感じられるやり方で、正直に音楽と関わっていくことです。



そのために、私は「専門家」ではなく「マルチクリエイター」という生き方を選びました。
音楽、文章、イラスト、デザインなど……。
異なる分野のスキルを掛け合わせることで、ライブという一つの表現方法に固執しなくても、自分だけの価値を創造できると気付いたのです。
だからこそ、あなたも無理に「ライブ好き」になる必要はありません。
その自然と湧き上がる違和感は、あなたの心が「もっとあなたに合った楽しみ方があるよ」と教えてくれている、大切なサインなのです。
第4章:HSPのための「幸福な音楽体験」実践ガイド


では、私たちは具体的にどうすれば、消耗することなく音楽を楽しめるのでしょうか?



ここでは、「ライブを楽しむための防御策」と、「ライブ以外の創造的な楽しみ方」の2つの側面から、具体的な方法を提案したいと思います。
Part 1:それでもライブを楽しみたいあなたへ(防御策)
ライブの魅力を知っているからこそ、諦めきれないーー
そんなあなたのために、まずは心身を守りながらライブに参加するための工夫を紹介します。
- 「耳栓」を使う
耳栓、と聞くと音楽が聞こえなくなるイメージがあるかもしれません。しかし、これは全くの別物。会話や音楽の質を損なうことなく、耳にダメージを与える不快な騒音域だけを効果的にカットしてくれる、いわば「聴覚のサングラス」です。たった数千円で、ライブ後の耳の疲れが劇的に軽減されます。耳栓は、あなたのQOL(生活の質)を上げる、いわば最高の自己投資です。
- 「避難場所」を確保する
チケットを取る際は、なるべくスピーカーの前から離れた、壁際の席や後方のエリアを選びましょう。物理的に刺激源から距離を置くだけなく、「いつでも逃げられる」という安心感が、心の余裕に繋がります。ライブ中、少しでも辛くなったら、迷わずロビーや会場の外に出て、クールダウンする時間を取りましょう。
- 前後のスケジュールを「空ける」
ライブの日は、その予定を1日のメインイベントに据え、前後に他の予定を詰め込まないようにしましょう。特にライブ後は、一人で静かに過ごす時間を確保することが重要です。酷使した感覚器官をメンテナンスし、他人の感情から自分を切り離すための、大切な「リセット」だと考えてください。
- 「一人」または「気心の知れた仲間」と参加する
大人数のグループで行くと、周りの反応に気を遣ってしまい、余計なエネルギーを消耗します。だからこそ、自分のペースで楽しみ、疲れたら自由に離脱できる「一人参加」は、HSPにとって最も快適なスタイルかもしれません。あるいは、あなたの気質を理解してくれる、本当に気心の知れた友人と少人数で行くのも良いでしょう。
Part 2:ライブ以外の楽しみ方(創造的代替案)
「ライブに行かない=音楽を愛していない」なんてことは、決してありません。



むしろ、ライブから距離を置くことで、より深く音楽を味わう可能性が広がります。
- 「最高の環境」で音源に浸る
高品質なヘッドホンやスピーカーを手に入れて、自分が最もリラックスできる空間で、好きな音楽に心ゆくまで浸る。これは、HSPの繊細な聴覚を喜ばせる、極上な音楽体験の一つです。私も、好きなアーティストのライブ音源を聴いた時、その巧みなアレンジや演奏の細部に気付き、ライブ会場にいるのとはまた違う、深い興奮と喜びを味わいました。アーティストが作り込んだ音の世界を、マイペースかつノイズレスな環境で楽しむ贅沢を、ぜひ味わってみてください。
- 「観る」から「創造する」側へ回る
音楽の楽しみは、受け取るだけではありません。ギターを弾いてみる、ピアノに触れてみる、あるいはLogic ProなどのDAWソフトを使って、自分で曲を作ってみる。ここ最近では、AIを活用した音楽制作も盛んです。HSPの「深く考える」力と「繊細な感受性」は、創作活動においてこの上ない才能となります。完璧を目指さず、まずは好きな曲をコピーしてみることから始めてみませんか?
- 知識や感動を「発信」する
あなたの音楽への愛や、HSPだからこそ気付く音楽の細部、感動したポイントなどを、ブログやSNSで発信してみましょう。私自身がそうであるように、「音楽」×「HSP」×「文章」といったスキルの掛け算は、唯一無二、あなただけのユニークな価値を生み出します。同じ価値観を持つ人々と繋がり、共感を分かち合う喜びは、孤独を感じがちなHSPにとって、何よりの支えとなるはずです。
最後に
音楽が好きなのに、なぜかライブが苦手。
その一見矛盾した感情は、あなたが持つ繊細で豊かな感受性の裏返しに他なりません。
- あなたのその繊細な耳は、他の誰にも聞こえない音の美しさを聴き分けるための、特別な資質です。
- あなたのその深い共感力は、アーティストの表現や叫びを、誰よりも深く受け止めるための、特別な才能です。



だから、もう自分を責めないでください。
無理に周りに合わせる必要も、アクティブな音楽ファンを演じる必要もありません。
大切なのは、あなたが「心から心地良い」と感じる方法で、正直に音楽と関わっていくことです。
この記事が、「自分だけの幸福な音楽体験」を見つける、小さなきっかけになれたのなら、これ以上に嬉しいことはありません。
ぜひ、HSPという素晴らしい気質を活かして、あなただけの音楽の楽しみ方、ひいては、納得感のある人生を一緒に見つけていきましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
以上、村上 亮一でした。



ではでは、したっけね~!


コメント